モザイク
「本当に・・・?」
「本当だ。」
長沢は泣き、床にヘタりこんだ。
「なんで私が・・・。」
涙が床に何滴も垂れる。しかし、それでも収まる様子はなかった。
「そんなに気にするな。何、病院にいけば、すぐに治るさ。」
根拠などない。しかし、少しでも長沢の気持ちを癒してやりたかった。
「は、はい・・・。」

長沢、大江、佐々木の三人は保健室に向かった。

「モザイクに見える?」
そう言ったのは学校医の丹沢だ。ちょうど打ち合わせに学校に来ていた。それが幸いした。わざわざ病院に行く手間が省ける。
「はい。」
「は、はい。」
長沢と佐々木は声を揃えて言った。
「これ、なんだかわかる?」
鞄の中に入っていた週刊誌を取り出し、ふたりの前に掲げた。表紙は鮮やかな文字に彩られ、かなりごちゃごちゃとしている。
「わからない・・・。」
「私も・・・わかりません・・・。」
ふたりの目には黄色い四角、赤い四角、青い四角、そんな原色の四角の集合しモザイクとなっているだけだ。わかるはずはなかった。
「なるほど・・・。じゃ、これは?」
次に取り出したのは小さなホワイトボードだ。何か予定が書いてあったが、それを消し、真っ白な状態にしてかざした。
「紙?」
そう答えたのは佐々木だ。丹沢は何も答えない。そのやり取りから長沢はなんとなく推察した。保健室にある白で埋め尽くされているもの。いつも予定が書いてあるホワイトボードだ。そう考えると、白の下の方に灰色が混ざっているように見える。きっと、マジックを置く金属の部分だ。
「ホワイトボード・・・ですか?」
「そうだね、ホワイトボードだ。じゃ、ここに文字を書くから読んでみて。」
まず書いたのは横棒を一本、つまり漢字の“一”だ。太く、はっきりと書いた。
白地に黒の横棒、ふたりは声を揃えて答えた。
「一。」
「一です。」
「なるほどね・・・。じゃ、次、これは?」
“一”に二本ほど棒を足した。次に書いたのは“土”だ。
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