モザイク
「そのふたつは見えるよ。でも、桜井さんはモザイクに見えるの・・・。」
「なんだって?!」
慌てて自分の掌を確認した。しかしモザイクになっているようには見えない。念のため掌を開いたり、閉じたりと動かしてみたが特に変わったところは感じられない。
「脅かすなよ。僕はどこもモザイクになっていないよ。まぁ、こう周りがモザイクだらけだと、一瞬自分の目がおかしくなったんじゃないかと思っちゃうけどね。」
それを聞き、今度はふたりが驚いた。
「周りがモザイクだらけなの?」
長沢が聞いた。
「そうだよ、さっき言ってたテレビも、カーテンも、僕にはモザイクにしか見えない。この病室に来るのだって、結構苦労したんだぜ。」
「と言う事は、この部屋以外もモザイクになったの?」
「残念ながらね・・・。」
それを聞き、佐々木は病室を飛び出した。
「長沢、来て見ろよ。」
佐々木に言われるがまま、長沢も病室を出た。
「これって・・・。」
モザイクになっている人間もいるが、普通に廊下を歩いているだけの者もいる。どちらかと言えば、今まで普通に見えていた風景に近かった。
「桜井さん?これのどこがモザイクなの?」
病室の外から声が聞こえてきた。桜井はふたりが外に出た事に気づかず、驚くばかりだった。
「こらっ、病室から出たらダメだって言ったろう。」
あさっての方を向いて注意した。
「ごめんなさい。それより廊下も、天井も、モザイクなんかになってないよ。」
桜井は考えた。ふたりの言っている事と自分の見える世界、それらは相反している。どうもモザイクになった者となっていない者では、見える世界がまるで逆転するらしい。
今、モザイクは拡がり続けている。このままいくと、もしかしたら自分の方が異端となるかもしれない。そんな不安が頭をよぎった。
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