モザイク
「あ、すみません・・・。簡単に言うとモザイクになった人がモザイクになった景色を見ると普通の景色に見えると言う事です。だから、普通のままの僕は相変わらずモザイクなんです・・・。」
簡単にと言う割には、やはり要領を得ない。
「はぁ。もう少しきちんと説明できないもんかね・・・。」
「そう言われても・・・。とにかく病院に戻ってきて下さい。先輩なら見ればすぐに意味がわかりますよ。」
「わかった。じゃ、戻ったらもう一度説明してくれ。」
そう言って電話を切った。
「戻れたらな・・・。」
そのあと、神宮寺は呟いた。

胸ポケットに刺してあったボールペンを手に取った。これでモザイクを触れば、誤って感染した者に触れても大丈夫なはずだ。
コンコン。
ボールペンは情けない音を立てた。神宮寺の心境を音にしたようだった。
コンコン。
また同じ音だ。ここに来た時、入り口は木の枠があった。こんな音ではないはずだ。もっと乾いた音。それを探した。
コンコン。コンコン。コンコン。
「なんで、どこも同じ音なんだ?」
またイライラが募った。
コンコン。コンコン。コンコン。
いくらやっても結果は同じだ。神宮寺はその場にヘタりこんだ。その時腰に付けていた鍵束が、床のモザイクに触れた。
チャリン。
風鈴のような音だった。床の材質も木だったはずだ。なのに、なぜこんな音を立てるのだろう。
「ん?」
この音が神宮寺に何かを気づかせた。ボールペンを鍵束に持ち替えて、さっきと同じ場所を叩いてみた。
チャリン。
同じ音だ。また別の場所を叩いてみる。やはり同じだ。元の材質に関わらず、モザイクはガラスのようになるらしい。
「なんてこった。」
これでは材質を手がかりに、出入り口を探すのは難しそうだ。
「どうしたらいいんだよっ。」
思わず側にあったモザイクをけ飛ばした。位置からすると、椅子があった所だと思われた。それは脆く砕け散った。
「うわっ。なんだよ、意外と脆いんだな。」
砕けた破片が床に散らばっている。それを見て、更に神宮寺は驚いた。
「もしかして・・・桜井の言っていたのはこう言う事か?」
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