モザイク
天罰
カナの父親はいつまで経っても祈りから戻って来なかった。祈っているだけなら誰にでも出来ると思っているかも知れないが、実際には違う。ものすごい体力を必要とするのだ。そのために、カナの父親は鍛錬を怠らなかった。市民マラソンの類などでは、上位入賞の常連だった。
それだけ体力を使うのだから、そろそろ戻ってきてもいい頃なのだ。気になった。
「お父さん、大丈夫かな・・・。」
そう言って窓から見える街の様子を伺った。カナの家は高台にあるから、街全体がよく見渡せる。街の変化に気がつくのは容易だった。
キラキラと輝いている部分がかなり多くなってきた。海や川に太陽の光が反射しキラキラ輝くように、街のあちこちが輝いている。
「もう、あんなに・・・。ここにいて・・・いいのかな?」
不安は大きくなっていく。しかし、カナだけで逃げるわけにもいかない。
「チロル、おいで。」
テレビを見ているチロルを呼んだ。しかし、チロルはカナの声に反応する事なく、そのままテレビを見ていた。

<早すぎないか・・・。>
チロルは驚いていた。ここまで人間を見たくないと賛同する者が多いとは想像していなかったのだ。
<まぁ、彼女は大丈夫だが・・・。にしても、この速度は尋常じゃない。>
ちらりと、カナの方を見た。

この現象ははじめての事ではない。過去にも同じ事があった。しかし、その時はここまでの速度はなかった。それだけ人間の傍若無人ぶりに閉口していたものが多いと言う事なのだろう。
<あの時と比べて・・・。状況は今とまるで違うから、比べられないのかも知れないが・・・。それにしても、これは・・・。>
不安だった。不安だから状況が違うと、無理にでもごまかすしかなかった。

以前はどれくらい前だっただろうか。恐竜と呼ばれる種が闊歩していた時代だから、もう相当前になる。
その恐竜たちは、今の人間と同じだった。他の種を無視するかのように、爆発的に増えていった。
そして、今の人間たちと同じように・・・。ただ、彼らを殺そうとした訳ではない。自重させようとしただけだ。最期に天から降りてきたもの。あれはチロルたちの仕業ではない。
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