モザイク
そう言う顔は全然悪びれていない。
<よく言うよ。>
神宮寺は呆れた。そして屈み荷物を持ち上げた。けして重くはないが、その大きさから前が全然見えない。体を斜めにして、やっと前が伺えるかどうかだ。
「木村さん、前は見ておいて下さいよ。」
「わかってる、わかってる。」
本当にわかっているのか怪しいものだ。
「ほら、もうすぐ右に曲がるぞ。」
廊下を曲がると、数段だが下り階段がある。神宮寺の大学の歴史は古い。何かある度に増設に次ぐ増設。つぎはぎの校舎と言うのが似つかわしかった。だから、無駄な階段があちこちにあった。
「わかりました。」
言われるがまま、右に曲がる。しかし、肝心の階段がどこから始まるのかを、木村は伝えなかった。
「あれ・・・。」
そう思った時は遅かった。足が宙に浮いている。そこから先は真っ逆さまに、階段を転げ落ちた。
「おい、荷物は大丈夫か?」
木村は慌てて段ボールを開けた。幸い荷物はなんともなかったようだ。それを確認してから、神宮寺に声をかけた。
「神宮寺、お前は大丈夫か?」
<順番が逆だろ・・・。>
そう思ったが、敢えて言わないでおいた。それから起きあがろうとした。が、何かがおかしい。原因はすぐにわかった。メガネがないのだ。だから、景色がぼやけて見える。
「木村さん、メガネ、メガネ知りませんか?」
「メガネ?」
「はい、転んだ拍子にはずれちゃったみたいで・・・。」
「ちょっと待ってろ。」
木村はメガネを探した。すると、神宮寺から少し離れたところに、メガネは転がっていた。
「あったぞ。あったぞ、神宮寺。」
メガネの元に小走りで向かう。そして持ち上げた。すると、メガネのレンズが片方無くなっている。
「ありゃりゃ・・・。」
レンズの無くなった場所を、指で何度も確かめる。何回やっても指に手応えはない。
「木村さん、どうかしましたか?」
「あのな、メガネはあったんだがフレームだけだ。レンズがない。」
「えっ・・・。」
神宮寺はかなりの近眼だ。メガネがないとなると、これから家に帰るのも困難だろう。この気分をどう表現すればいいのだろう。神宮寺は渦巻く感情に言葉を失わされた。
<よく言うよ。>
神宮寺は呆れた。そして屈み荷物を持ち上げた。けして重くはないが、その大きさから前が全然見えない。体を斜めにして、やっと前が伺えるかどうかだ。
「木村さん、前は見ておいて下さいよ。」
「わかってる、わかってる。」
本当にわかっているのか怪しいものだ。
「ほら、もうすぐ右に曲がるぞ。」
廊下を曲がると、数段だが下り階段がある。神宮寺の大学の歴史は古い。何かある度に増設に次ぐ増設。つぎはぎの校舎と言うのが似つかわしかった。だから、無駄な階段があちこちにあった。
「わかりました。」
言われるがまま、右に曲がる。しかし、肝心の階段がどこから始まるのかを、木村は伝えなかった。
「あれ・・・。」
そう思った時は遅かった。足が宙に浮いている。そこから先は真っ逆さまに、階段を転げ落ちた。
「おい、荷物は大丈夫か?」
木村は慌てて段ボールを開けた。幸い荷物はなんともなかったようだ。それを確認してから、神宮寺に声をかけた。
「神宮寺、お前は大丈夫か?」
<順番が逆だろ・・・。>
そう思ったが、敢えて言わないでおいた。それから起きあがろうとした。が、何かがおかしい。原因はすぐにわかった。メガネがないのだ。だから、景色がぼやけて見える。
「木村さん、メガネ、メガネ知りませんか?」
「メガネ?」
「はい、転んだ拍子にはずれちゃったみたいで・・・。」
「ちょっと待ってろ。」
木村はメガネを探した。すると、神宮寺から少し離れたところに、メガネは転がっていた。
「あったぞ。あったぞ、神宮寺。」
メガネの元に小走りで向かう。そして持ち上げた。すると、メガネのレンズが片方無くなっている。
「ありゃりゃ・・・。」
レンズの無くなった場所を、指で何度も確かめる。何回やっても指に手応えはない。
「木村さん、どうかしましたか?」
「あのな、メガネはあったんだがフレームだけだ。レンズがない。」
「えっ・・・。」
神宮寺はかなりの近眼だ。メガネがないとなると、これから家に帰るのも困難だろう。この気分をどう表現すればいいのだろう。神宮寺は渦巻く感情に言葉を失わされた。