モザイク
未来に向かって
病院の姿が見えてきた。
「なんだ、まだ何ともなってないじゃないか・・・。」
神宮寺は忘れていた。自分がモザイク越しに病院を見ている事を。病院は完全にモザイクに飲み込まれている事を。
病院の前にいた取材陣達は、どうやら逃げてしまったらしい。機材車やカメラがそのまま放置されている。
「逃げたのか・・・。」
入り口を塞ぐように放置されていたカメラを、車を降り端に片づけた。

「神宮寺さん。」
再び車に戻ろうとした時、背後から声が聞こえた。
「桜井?」
声は桜井だが、顔はモザイクになっているからわからない。
「どうしたんですか、それ?」
「それ?」
「そのサングラスですよ。絆創膏が貼ってあって・・・なんなんですか?」
桜井に言われ、慌ててサングラスをはずした。
「あ、あぁ・・・。」
いつもの桜井の顔を見る事が出来た。代わりに病院は無惨なモザイクに変わり果てた。
神宮寺は頭を掻きむしった。
「どうしたんですか?」
「これ、かけて見ろ。」
サングラスを桜井に手渡した。
「これですか・・・。」
絆創膏の貼ってあるサングラス。桜井は一瞬躊躇したが、言われた通りにする事にした。ゆっくりと両手で持ったサングラスをかけた。
「な、なんだ・・・。神宮寺さん、これ、なんなんですか?」
そう言って神宮寺の方を見たが、モザイクに変わってしまっている。
「あれ、神宮寺さん・・・?」
不安になり、サングラスの上から神宮寺のいる方向を覗いた。
「神宮寺さん、いますよね?ずっと、そこにいましたよね?」
神宮寺が腰に手をあてているのが見える。
「いたよ。一歩もここを動いちゃいないさ。」
「なら、なんで?」
もう一度、サングラス越しに神宮寺を見てみる。すると、またモザイクに変わった。
「お前が電話してきただろ。あれだ。」
「あれって・・・モザイクじゃなくなったって、僕が言ったあれですか?」
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