モザイク
「今の神宮寺さんの車でしたよね?」
サングラスをかけた時に、神宮寺の車が見えた。それが今はなくなっている。
「あぁ・・・そうだな・・・。でも、砕けて砂になっちまったけどな・・・。」
その表情を見て、自分がいかに愚かな考えをしていたのかと、桜井は反省した。
「すみません・・・。なんてバカな事考えてたんだろ・・・。」
「いいんだよ。見える世界が元に戻るってのは、人にとっては大きな意味を持つからな。視覚は外部から取り入れる情報の七割以上を受け持っているんだ。お前がそう考えるのもしょうがないのかもな。」
「本当にすみません。ただ、これって治せるんですかね?」
桜井の問いに神宮寺は何も答えなかった。
「先輩?」
「治せるかねぇ・・・。わからないな・・・。」
意外だった。いつもの神宮寺なら、治せると言い切ってくれるはずだ。
「どうしたんですか?らしくないですね。」
「俺は心のどっかでいい気になっていたのかもしれないな・・・。はじめはこの奇怪な病気を治せると思っていた。でもよく考えて見ろ、車や建物に感染する病気なんて聞いた事あるか?」
「ないですね。」
「それを治せると思ってたなんて、おごりでしかないだろう?」
今度は桜井が答えなかった。ここで答えたら、もう終わりな気がしたからだ。
「そんな事言わないで下さい。僕も神宮寺さんも、まだ感染していない。他の街なら、研究が出来る施設が残っているかもしれない。時間がかかるかもしれないけど、何もしないよりはマシです。」
「桜井・・・。そうだな、あぁ、その通りだ。じゃ、まず研究の第一歩として、丹沢や丹沢が連れてきた生徒を診察してみよう。」
「そうですね。」
ふたりの表情に明るさが戻った。
「じゃ、お前も、こんな風にメガネを作れよ。物がちゃんと見える方が色々やりやすいだろ?」
神宮寺はサングラスを指さし言った。
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