モザイク
「あ、そうですね。」
桜井は胸ポケットにしまってあったメガネを取り出し、同じような加工をした。そしてそれをかけると、勢いよく病院の中に入っていった。

「まずは生徒たちからだな。」
神宮寺は桜井に案内させた。
「先輩、ここです。」
桜井の声を聞き、長沢が聞いた。
「桜井さん?」
それにしてはモザイクが大きく見えた。
「そうだよ。もう一人、神宮寺先生もいるよ。」
モザイクが大きいのに納得した。
「さっきは悪かったね。」
途中で桜井に診察を押しつけてしまった事を詫びた。
「別に。それより先生に会えたの?」
「それが・・・学校に行けなかったんだ。」
「なんだよ、住所も電話番号も教えたのに。」
そう言ったのは佐々木だ。
「すまない。学校に行く途中で道が使えなくなってたんだ。」
佐々木の方を見て話すが、もちろんそれは佐々木にはわからない。
「道が使えなくなったって?」
「モザイクに変わってしまったせいなんだろう、車がまったく動かなくなってな。電車も動かないし、そこは学校まで歩いていけるような場所じゃなかったからな。それに・・・。」
神宮寺は言い掛けてやめた。
「それに、なんだよ?」
「いや、いいんだ。」
神宮寺は手を振り、問いかけを断った。
「いいから教えてくれよ。」
佐々木には見えないのだから、神宮寺のフリなど関係ない。もう一度聞いた。
「君たちの先生をどうにかすれば感染が食い止められる、俺は心の中でそう思ってた。しかし実際にはどうだ。ここだけじゃない街中が感染している。つまり無駄な事をしたって事さ。」
どこか投げやりな言い方だった。
「神宮寺さん、何もそこまで言わなくても・・・。」
桜井が言った。
「そうだよ、これって病気じゃないかも知れないでしょ。物が感染するなんて聞いた事ないもん。病気じゃなかったら、先生がどうにか出来なくてもしょうがないよ。」
長沢も言った。
「ありがとう・・・。」
神宮寺はそう言うのが精一杯だった。
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