モザイク
自分の家の広さを恨めしく思った。揺れは、相変わらず続いている。こんなに長い地震ははじめての経験だ。家のあちこちが音を立てている。さながら家の悲鳴と言った所だろうか。
カナの掌が真っ赤に染まった。
「何?!」
痛みより、溢れ出た血に驚く方が大きかった。カナは崩れてきた家の欠片で手を切ったのだ。天井をよく見ると、一センチ位の欠片が、ひとつ、またひとつと落ちてきている。
「早くお父さんのところに行かなきゃ。」
血を無視し、そのまま進んだ。廊下にはカナの手形がいくつもついていった。

モザイクの量が多くなってきた。もうすぐ父親がいるはずだ。カナは思った。
「お父さんっ。」
カナが叫ぶと、目の前で揺れているモザイクが答えた。
「カナ、大丈夫か?」
「うん。大丈夫。お父さんは?」
無意識に怪我した手を、背中に隠した。
「そうか・・・。お父さんも大丈夫だ。」
お互いに、お互いの姿を見ることが出来ない。声で伝え合うしかない。
「お父さん、外に逃げよう。この家、崩れてきてるよ。」
言った側から、欠片が落ちてきた。何かを伝えようとしているかのように、ゆっくりカナの目の前を通り落ちていった。
「お父さん?」
一瞬、父親の姿が見えた気がした。もう一度、父親の方を見るがモザイクのままになっている。
<なんで?今、お父さんの姿が見えたのに・・・。>
また欠片が落ちた。目の前を通った一瞬だけ、父親の姿が見えた。カナは目の前に落ちた欠片を拾った。そして、そっと覗いた。
<お父さんが見える・・・。>
理由はわからなかった。ただ、欠片を通すと見えるのは間違いない。カナは勝手に死んだ母親が助けてくれたのだと考えた。
<ありがとう、お母さん・・・。>
もう一度、父親を見る。すると、どこかにぶつけたのだろうか、額の辺りを押さえていた。それを見てカナは父親の側に向かった。
「お父さん、おでこ大丈夫?」
父親は驚いていた。
「カナ・・・お父さんが見えるのかい?」
「うん、天井から落ちてきた欠片を使うと、お父さんの事がはっきり見えるの。」
「本当かい?」
父親も欠片を拾い、それを覗いてみた。
「ダメだ・・・お父さんには見えないみたいだ。」
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