泣いて、キスして。
声だけはふざけた調子で続けて、そいつはあたしの首筋に顔を埋める。ちくっと走った痛みに思わず声を漏らせば、ひそやかな笑い声が返ってくる。

「……噛み切った?」

「うん」


そいつが頭を振った途端、ふわっと男にしては甘い香りがあたしの鼻腔をくすぐった。
勝手だ。
すごく、勝手。

「――でも、俺以外の男の痕が残ってるより、いいんじゃないの?」

男の肌から伝わってくる体温が一気に奪われたような感覚を覚えて、あたしはぱっと振り向く。
まつげが触れ合いそうなほど近くにあった男の美貌は、冷え切った笑みを刻んでいた。

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