妖士(ようし)
「しっかりしろ!初子!!」
手を握ったまま目を開くと、疾風の姿が目に入った。
「じっとして・・・」

疾風は何かの呪文を小さく唱え、麗貴妃の胸に手をおいた。

「大丈夫?」

心配そうに顔を覗き込まれると、麗貴妃の瞳に涙が溢れてきた。

「疾風・・・っっ!!」

身を起こして抱き着くと、優しく背中を叩いてくれた。
必死に涙をこらえていると、落ち着いた声がした。

「麗貴妃殿。」

疾風に抱きしめられたまま振り向くと政行が穏やかに笑いながら座っていた。

「政行様・・・」

なぜここに・・・と言おうとして辺りを見渡すと、織り姫や幸までいた。

幸は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

織り姫は何故か嬉しそうにしかし心配そうにこちらを見つめていた。

「何があったのか聞きたいところですが・・・疾風が放しそうにありませんね。」
慌てて離れようとしたが、疾風はしっかりと腰を捕まえていた。

「疾風から報告をお聞きしたいと思います。では、」
幸と織り姫に合図をして政行は部屋からでていった。
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