妖士(ようし)
「疾風・・・放して?」

そっと言ってみたが、疾風は頑固に首を振った。

疾風の腕の中は温かかったが、たくましい筋肉と女とは違う骨格に心臓が止まりそうなくらいどきどきしていた。

疾風は麗貴妃の黒髪をそっと撫でた。

「何があった?」

あの夢・・・
一体何を告げるものだったのだろう。

赤い眼と骸骨を思い出して、身震いすると、不意に腕が緩められ、疾風と目があった。

「初子・・・?」

「ゆ・・・夢を見たの」

そう、あれは夢。

「暗闇の中に、赤い眼をした骸骨がたくさん・・・」

「骸骨・・・?」

うろんげに眉を寄せる疾風に続けて言った。

「骸骨が、復讐を・・・って、我ら一族を滅ぼした・・・って。そこで、疾風の声がして、目が覚めたの。」

「一族・・・?」

分からないことだらけでますます疾風の眉間にしわがよる。

「初子、俺は少し父上の部屋に行かないと行けないから・・・」

ためらいがちに言う疾風を見て一人になる不安が募ったが、にっこり微笑んだ。
「大丈夫。政行様を待たせてはいけないわ。」

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