妖士(ようし)

「帝に新しい女御が入内なさるらしい。」

翡翠の宮の一角で帝からの書状を読んでいた政行はつぶやいた。

「一体どなたが・・・?」

傍らに姿を現した織り姫がうろんげに聞き返した。

「中納言の二の姫だそうだ。麗貴妃殿の従妹にあたられる。」

「姫の・・・」

織り姫は麗貴妃のことを大層大事に思っている。

もし、妖士族の宮にと彼女に白羽の矢が立たなければ、今頃は帝の妃にでもなっていたのだろう。

普通の貴族の娘ならば、帝の妃になれなかったことを悔やみ、宮になったことを呪うのだろうが彼女は違った。

疾風とも仲睦まじく、妖士族のものたちは、政略結婚でありながらのそのようすに嬉しさを覚えているのだ。

また、妖や式神を見てもにこにこ笑い全く怖がるようすもない。

織り姫はそんな姫君に仕えられることを本当に誇りに思うのだ。


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