妖士(ようし)
「織り姫、茶を入れてくれ。」
政行が肩をとんとん叩きながら言った。
「かしこまりました。」
織り姫は立ち上がり、障子を開けた。
そのとき。
「貴妃様!!」
「お待ちくださりませ、貴妃様!!」
何やら騒々しい声がした。
「どきなさい!!」
聞き慣れた声が制止を振り払う。
二人の目の前を鮮やかな衣装を纏った麗貴妃が駆け抜けた。
その後ろにはふわふわ浮かびながらついていく幸の姿。
怒涛の如く通り過ぎた彼女らに二人はぽかんと口を開けて静止した。
「幸・・・!!」
織り姫が普段に似つかない低い声で唸った。
姫の護衛を任されていながら、こともあろうに姫を連れ出すとは。
「よくも姫をっ・・・!!」
凄まじい勢いで二人の後を追って飛び出して行った織り姫の後ろ姿を眺めながら、政行はのほほんと考えた。
幸は麗貴妃の後についていたのだから、麗貴妃が自らの意志でここにきたのだろう。
「全く変わった姫君だ。」
そんなことをつぶやきながらも、触らぬ神に祟りなしとばかりに決して織り姫を止めようとしない彼は、織り姫の後ろ姿をぱたぱた手を振って見送った。