妖士(ようし)
「くあ〜っ暇だなぁ」

おおあくびをする獣一匹。
「うるさいなぁ。あっち行っててよ〜」

文句を言う少年一人。

政行の部屋から少し離れたところで、疾風と竜は仕事をしていた。

竜は寝てばかりだが、疾風は実に真面目に仕事をこなしていた。

「暑い・・・。」

竜は白銀の毛並みで覆われた体躯をうっとおしそうに眺めた。

もう九月とはいえまだまだ厳しい残暑が続いていた。
「じゃあ俺がその毛、刈ってあげるよ?」

疾風が微かに笑いながら言うと、竜はくわっと牙を剥いた。

「やかましいわい!この俺様の美しい毛並みを刈るなんて・・・!」

はいはい静かにしてね〜と軽く流された竜はむっとした顔になり簀の子に出てぐったり寝そべった。

「お?」

何気なく廊下の先に目をやった竜は、まばたきしてもう一度目を凝らした。

鮮やかな衣装が見える。

目がおかしくなったかもしれないと前足で目をこすり再び再び目を凝らす。

今頃は真珠の宮にいるであろう人物を捕らえた竜はう〜んと唸った。

「疾風〜。」

竜に声をかけられた疾風はな〜にと生返事を返した。
「お前・・・初姫になんかした・・・?」

「・・・は?」

仕事に没頭していた疾風は顔を上げた。

「あの勢いはお前がなんかしたとしか思えないね〜」
疾風は竜の横にひょいっと顔を出した。

「あ・・・」

「疾風様っっ!!」

息を切らして立ち止まったのは紛れもなく彼の妻、麗貴妃・初姫であった。


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