妖士(ようし)
「今・・・何と・・・。」

五百年前に封じられていた八匹の神獣たちの頭、ヤマタの大蛇の根城に瑛姫はいた。

目の前にかしこまる一匹の妖怪を愕然と見下ろした彼女は、冷たい瞳で問うた。
「こう申しました。」

あまりにぞんざいな物言いに、周りに控えていた妖たちは怒りの声を上げた。

「なんと無礼な・・・」

「神狐族女帝によくも・・・!」

口々に唸る妖達を瑛姫が一瞥する。

すると辺りには冷たい空気が流れ、妖達は怯えたように口を閉ざした。

神狐族。

それは瑛姫が築き上げた一族の名。

彼女は一族を束ねる女帝であったがそこに至るまでの物語は別にある。

決して逆らってはならない絶対的な力を持つ彼女。

たとえヤマタの大蛇を頭とする八匹の神獣たちが配下の妖を率いて刃向かおうとも、勝機などありはしない。

そんな彼女にぞんざいな物言いをしたこの妖は少し先の未来を見通す力を持つ妖であった。

「このまま朝廷を襲えば、姫は妖士族を失います。」
辺りの妖達はいぶかしげな表情をした。

妖士族は宿敵。
滅びて何の問題があるというのか

しかし瑛姫は目を見開き、言葉を失った。

妖士族、あそこには夫と我が子がいる。

「神獣達だけを残して後は行きなさい。」

やっとの思いで口にした言葉に辺りの妖たちは皆静かに去って行った。

後に残るは、八匹の神獣と氷雨、そしてあの妖だった。

「おまえは・・・本気でいっているの?このまま朝廷を襲えば私は・・・」

「姫の夫君とお子様を失います。」

瑛姫はそれを聞くと、美しい面差しを苦痛に歪め、力尽きたように腰を下ろした。

「岩壺の妖よ・・・二人を助けるすべはないのか?」

身体が炎に包まれている火鳥が口を挟んだ。

「そうだ。たとえ妖士族であっても我が姫の和子。」
火鳥の兄弟である怪鳥、大鵬(たいほう)も巨大な翼を開いていった。




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