妖士(ようし)
母に疾風と自分どちらが大切なのか、聞いてみたことは無かった。

母が疾風のことを話す表情はとても穏やかで柔らかかったからだ。

ただ母の幸せを叶えたかった。

たとえ疾風の方を深く愛していても構わなかった。

「母上・・・八百年前より我は母上をお護りしてきました。」

八百年前。
そう聞いたとたん瑛姫は顔を歪めた。

「これからもそれは変わりませぬ・・・母上がどんな道を選ぼうと、母上のために我は戦います・・・」

大蛇は八つの首の中で一番巨大な頭をもたげた。

全ては母のために・・・

「大蛇・・・。おまえには・・・辛い思いばかりさせる・・・」

瑛姫は自分の体の倍以上ある大蛇の頭に手を伸ばした。

大蛇は母の手に頭を寄せた。
小さいけれどとても温かい手に頭を撫でられて大蛇は眼を閉じた。

母に頭を撫でられるのは本当に久しぶりで。

その温もりがとても、とても嬉しかった。



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