妖士(ようし)
「え・・・」

かすれた声が紡がれる。

「初子・・・それは・・・」

疾風は政行、竜と共に言葉を失った。

「朝廷を護れば、疾風様や政行様は・・・母上様を失います。」

麗貴妃は苦しそうに言葉を吐き出した。
疾風と政行は凍りついたままだ。

「母上を・・・失う・・・?」

疾風がぽつりと呟いた時、政行は静かに立ち上がり部屋を出て行った。

残されたのは、若い夫婦と獣一匹。

疾風はまだ数えるほどしかあったことのない母の姿を思い浮かべた。

初めて会った時、自分に牙を突き立てようとした妖から庇ってくれた。

そして政行の部屋で会った時、手を伸ばしてきた母から身を引いてしまったあの時の切ない瞳。

時が経ってもなお我が子を愛する母親の姿をみた。


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