妖士(ようし)
真珠の宮、麗貴妃は寝台に腰を下ろして息をついた。

麗貴妃の脳裏に頭を悩ませる疾風の姿が浮かんだ。

母と戦うことになったのだと彼が告げたのは昨夜のことだった。

感情を消して淡々と言葉を吐いた疾風の瞳からは何も読み取れなかった。

辛いに違いないのに、
泣いてしまいたいはずなのに、
疾風とその父は笑うのだ。

毎晩、毎晩、都を守るために遅くまで話し合いをしているのを彼女は知っている。

何かしてあげたいのに、術も通力も持たない自分はただ身を案じることしかできない。

麗貴妃は瞳を曇らせた。

毎朝、神に祈り、その声を夫・疾風に伝えるのが彼女の仕事だ。

しかし妖士族を見守っているはずの神々はあれきり沈黙を貫いている。

そのことに思いを巡らせて気が重くなった麗貴妃は再び神殿に向かうことにした。

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