妖士(ようし)
「ごめん・・・びっくりさせるつもりは・・・。」

疾風の言葉は不意に途切れた。

彼女が袖を下ろしたからだ。

こんなにも綺麗な人がいたのかと思った。

美しい黒髪。
大きな澄んだ瞳に。
長いまつげ。
柔らかそうな唇。
細くかたちの整った柳眉。

「初子と申します・・・どうか末永くよろしくお願いいたします・・・」


「え・・・俺は疾風・・・です。」


顔を赤らめて名を名乗り合う若い夫婦を満月が優しく照らしていた。




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