妖士(ようし)
そっと部屋を覗いてみると政行は水盆を眺めていた。
日は沈み、薄暗い。

「明かりも燈さないの?」
足を踏み入れると政行は織り姫と全く同じ反応をした。

「琉妃っっ!!」

政行は妻を愕然と見つめている。

琉妃はそっと戸を閉め、夫の傍らに座った。

「急にごめんなさい。」

時を経てもなおも色あせない美貌をもつ顔が申し訳なさそうに歪んでいる。

「琉妃・・・今までどこにいた・・・」

そっと妻の頬に手を添えると彼女がその手を握った。
「言えないわ・・・あなたには・・・」

微笑んでいるがそのまなじりから涙が一筋こぼれ落ちた。

「ずっと待っていた・・・お前を」

政行の顔は若返っていた。
「お前のことを忘れた日など無かった・・・」

「えぇ・・・」

かつて愛し合った二人はしばらくそうしていた。

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