妖士(ようし)
「早く歩けよ〜」

竜が後ろからつつく。

「分かってるようるさいな!あ・・・義母上・・・?」

角を曲がった時陽妃が着物を持って現れた。

「あら、疾風お帰りなさい。政行様のところに行くの?」

「はい!義母上は父上のお着物ですか?」

二人して政行の部屋の前についた。

戸を叩こうとしたとき・・・

「瑛子・・・」

父の声が聞こえた。

うろんげな表情をして陽妃をみると陽妃も同じだった。
「父上。失礼します。」

戸を開こうとすると中からさっと開けられた。

そこにいたのは・・・美しい女と父だった。

女が立ち上がり、陽妃を見て微かに眉をひそめた。

「琉妃・・・様・・・」

茫然とつぶやく。

「お前はっ!昼間の女!」
竜が牙を向いて飛び掛かろうとしたとき、茂みから
鋭い唸り声が響き漆黒の狼が踊り出て竜に体当たりをした。

二匹の獣が牙をむいて対峙しているなか琉妃が声をあげた。

「氷雨!おやめ」

氷雨はさっと身を翻すと瑛姫のそばに身を寄せた。

「迷惑をかけたわね、政行。」

政行は小さく首を振った。
「また会いましょう。」

瑛姫は入口に呆然と立つ陽妃と疾風に目をやった。

そして陽妃には目もくれず疾風を見つめた。

疾風の胸元で光る石に目を止め、思わず手を伸ばした。

はっとして思い切り身を引いた疾風を、瑛姫は悲しげに見つめたが、やがて氷雨の背に乗り、夜闇に紛れて去って行った。

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