偽りなく言葉に
「速水先輩ですよね?」
口角を上げながら私に問いかける目の前の男
「…だから人違いだって言ってるでしょ?」
無駄に吠えたらこの男の思うツボ
「人違いかー、そんな事ないと思うんですけど」
しつこい男の相手はもう懲り懲りだと言うのに
私はいつも、しつこい男ばかりに付き纏われる
「確かに私の苗字は速水だけど私はあなたの事なんて知らないわ」
忘れたくても忘れられなかった記憶が段々と甦っていく
「俺は知ってますよ
だって俺は先輩の事が好きですから」
‘俺は先輩の事が好きですから’
前にも耳にした言葉
記憶に残っている声
でも私は知っている、
この言葉も声も偽りのものだと。