春も嵐も
のれんや赤ちょうちんが出ていないと言うことは、やっていないらしい。

それとも、ただ単に日曜休みか。

俺が探していた『居酒屋ますだ』は、商店街から少し離れた場所にあった。

『居酒屋ますだ』の向かい側には、会社らしき大きなビルがたくさんあった。

「平日の夜はサラリーマンやOLさんがよくくるの」

俺の心の中を見透かしたように、彼女が言った。

「“手ごろな値段でボリューム満点”って言うのが、店のキャッチコピーみたいなものだから」

「ふーん」

平然と彼女の話に答える俺だったが、心の中はバカみたいにドキドキしていた。

だって、俺が探していた人物と面会の時だぜ?

ドキドキしないって言う方が間違ってるよ。

「1つだけ聞いてもいいかしら?」

彼女が言った。
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