春も嵐も
その日の夜だった。

「さて、と…」

表に出ていたのれんを下ろすと、俺は中に入った。

ようやく今日の営業が終了した。

時刻は、23時半なり。

何しろ梶原親子が大変でさ…遺伝って、本当に恐ろしいもんだね。

そんなことを思いながら鍵を閉めていたら、
「嵐」

その声に振り返ると、親父がいた。

「何?」

親父は目を伏せると、
「…ありがとな」

聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言った。

今日の、藤見椎葉の件についてだろうか?

「どういたしまして」

礼を言われたからにはちゃんと返す、これ常識である。
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