春も嵐も
その日の夜。

「じゃ、明日もまたくるから」

藤見椎葉は手を振ると、迎えの車に乗って去って行った。

何がまたくるからだ、迷惑だっつーの。

そんなことを思いながら俺はのれんを下ろすと、中に入った。

「藤見のお嬢、帰った?」

カウンターを拭いていた弥生が声をかけてきた。

「ああ、帰ってったよ。

あのままこなけりゃ文句言わねーのにな」

鍵を閉めながら、俺はブツクサとぼやいた。

「全く、単なるヒマつぶしかっつーの」

「ねえ、嵐」

「んー?」

返事をした俺に、
「後で話があるんだけど」

弥生が言った。
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