春も嵐も
俺は黙って、親父の話を聞くことにした。

「今から20年も前になるんだろうな。

その時、俺は妻――弥生の母親を亡くしていた。

勤めていた会社も倒産して、不運続きと言ってもいいくらいの時期だった。

考えることは悪いことばかりで、俺は世の中に必要とされていないんじゃないかと思った。

死ぬことばかりを毎日考えてた。

その年の夏くらいに、俺は死ぬ場所を探すために旅行に出かけた。

弥生を両親のところに引き取ってもらって、自分はこの世から逃げようと思った。

この先、生きていても何もない。

むしろ、不幸が続くだけ。

そうなったら、弥生にも迷惑がかかるだけ」

親父は話を続けた。
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