強がりも全部受け止めて
「これ、すごい色ね。何のお茶?」




『ローズヒップティーです。笹岡さんもよかったら飲みませんか?そのローズヒップティー、くせがなくて飲み易いですよ!』




「ありがとう、じゃあ甘えて頂こうかしら」




『どうぞ!もう少し蒸らしたいので少し待っててくださいね〜。あ、でも笹岡さん仕事はまだ抜けてて平気ですか?』




「大丈夫よ」




クスリと笑いながら答えると、亜希ちゃんもにっこりと笑った。




ティーポットの中の赤い液体を見ながら、また頭の中を占拠していくのは、義彦のバイト先で、出会った彼の事。




親切に話を聞いてくれて、泣いた私に胸まで貸してくれた、名前も知らない人。




あの日、義彦と乗ったタクシーが家に着き、支払いをしようとした時初めて借りたハンカチをずっと握り締めたままだと気が付いた。




洗って返すと言ったハンカチを、その日の内に手洗いで、柔軟剤まで使ってきちんと洗い、アイロンもしっかりとかけた。




だけど。



「借りたハンカチ返しといて」



そういってそれを義彦に渡すことがどうしても出来ずにいた。




直接返すのが礼儀じゃないかしら、と思いつつ、義彦の目が気になってそれも出来ない。



どうするのがいいのか、そもそもどうしてこんなに悩んでいるのか。
考えれば考えるほど、頭がごちゃごちゃして、仕事中も気を抜くとそんなことばかり考えてしまっていた。



< 29 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop