今宵星
『今日は楓だ。』
悪いときには悪いことが重なる。
平等だなんて嘘だ。
不幸も不運も
より多くあるところに集まってくる。
楓は、連れて行かれる中でも、一番に行きたくないクラブだった。
『そのあとは、ブライトだからな』と、またまた行きたくないキャバクラの名前が出され
本気で、今日バイトに来たことを後悔した。
『おつかれさまでした』
着物から私服に着替え、階段を上り地上に出ると
待ってました、とばかりにこっちを見てくる幸さんが目に入った。
人は見た目ではわからないものだ。
こうやってみると、すっかり人混みに馴染んでいるというのに
実は、どこかの会長さんだなんて
一体誰が思うのだろう。
手招きをされ、いつもの車に乗り込むと
歩いたって10分もかからないその距離を、暗闇に向かって走り出した。
車の中でだって、あたしたちの間にたいした会話は存在せず
別にあたしたちはどっかの嬢と客という関係でもない。
とくに気にもせず、携帯を開くと
別にメールや着信があったわけでもないのに
一気に今朝の出来事が思い出された。