桜の見える丘(仮)
「何か言ったら?私のだからとらないでとか言えばいいじゃない。」
……そんな風に言えるわけがない。
今は距離を置いているところだし…私がそんな風に言っていい権利なんて…ないと思う。
本当は、言ってやりたかった。神谷は私のだって。
気にくわなかった稲本さんの態度のことも言ってやりたかった。
なのに…同じように恋する仲間であるとわかれば…やっぱり言えなかった。
「……。」
無言を貫く私にイライラし始めた稲本さん。
「黙ってたらわからないじゃない!!!美姫ちゃんは自分の彼氏とられていいって言うの!?」
「…いいわけない…。」
でも――――・・・
「人が誰を好きになろうか、なんて…自由だと思う。私が稲本さんに神谷を取らないでとか言える権利…ないと思う。」
稲本さんは…「そう。」と言い残して私の横を通り過ぎていった。
屋上のドアを閉める音と同時にかすかに聞こえた声。
『自分の言ったこと…後悔するといいわ。』