愛乗りシンドバッド
『ごめんね』

別れた時に言われたその言葉が
寝ぼけまなこに
ふと頭にちらついた。

俺は重たいまぶたをこすって
体を少し伸ばしてやる。

……つきまとってるのは
そっちだね。

ごめんねも何も
こうしてたびたび現れて
胸の内を掻き回されちゃ、
迷惑千万。

心配せんでも
もう関わりませんよ。

決まって脳裏に浮かぶのは、
彼女をさらっていく
役目であろう
袖で出番待ちの
あざ笑う見知らぬ男。

勝手にこれからもこんな妄想を
続けていくかと思うと
全てがぐちゃぐちゃになって
見えてくる。

……って、
振られた奴が迷惑だってさ。

自尊心がまるで
見当違いなことを
ほざきだしたな。

俺は深く呼吸を整える。

そしてぼんやりとした明かりを
なにげなしに眺めてから
やっと今言うべきセリフを
呟いてみた。

「……夢じゃなかったのか」
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