0-WORLD
此処マルクトはタウの王国といわれる危険区域、無法地帯。

屑の吐き捨て場とも呼ばれるこの街で俺は育ち、そして今やマルクトの主とまで呼ばれるようになった。

だがそれはあくまで他人が勝手に呼ぶだけで、俺自身そんな面倒な肩書きは要らないし、タウたちだって関係なしに好き勝手に活動してる。要するに、俺はただの家無し。ホームレスのはきだめともいわれるマルクトでのスタンダードを、ただ生きてるだけなんだ。


「タウ…ストリートチルドレンあがりの、ただの家無し。金が欲しい時はファイトにでも出ようかって、ただそれだけのつまらない男だよ、俺は」

「はっ!よくそんな言葉が吐けるな。そんなつまらない男に俺は…」


トリックは其処までいって、ぐっと何かを堪えるように言葉を飲み込んだ。
一瞬目を閉じたかと思ったら、次に目を開けた時にはさっきまでの冷静さを保った男の顔に戻っていた。俺にナイフを向けられても微笑を崩さないただものでない男に。


「まぁ、いい。いずれお前と対峙する時が来る。その時は見世物小屋のステージの上だ。精々覚悟しておけ」

「解った。誠意ある試合を」


俺が右手をトリックに差し出すと、トリックはそれを汚いものを見るような目で、そして黙って撥ね付けた。
俺に悪気なんてものはなくて、天然で計算もなく生きているつもりだが、良かれと思ってやった事が相手を逆上させてしまうことに終わる話がよくあった。多分今もそうなのだろう。
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