0-WORLD
「!どどど、どーしたのさ!」
シャンが慌てるのを、俺はぼけっと眺めていたが、やがてそれは俺のぼやける視界の理由が、頬をつたったときに気がついた。シャンの、あわてふためく原因が。
「あ…?なんだ?」
それは俺の涙の感触だった。
ぬぐった手の甲は透明に濡れている。そしてまた墜ちるのを感じて、またぬぐった。それでも涙は止めどないように溢れて、頬をつたった。
「…ゼロ…?」
ライは慌てるというよりは怪訝な顔だ。
それはある意味正しい反応だった。何故なら急に涙を流すという症状は、“記憶"の患者に現れる初期症状だから。
「…は、捨てられたことを思い出したんだよ。狭いところはやっぱりイカンね」
俺は思わず誤魔化した。
捨てられた過去の事を思って涙を流すほど俺は純情じゃない。捨てることを覚えた俺だから、今更そんな事実はいい。
『記憶』だと思われたくなかった。そんなものを引き起こしたら、間違いなくネツァクの収容所の中だ。其処で俺は狂人どもの叫びを聞きながら一生を終えなきゃならなくなる。