0-WORLD
「ゼロ、安定剤を打とう」


ライが云い放った言葉に俺は憤慨した。気付けば立ち上がっている。


「錠剤とはもうお別れだって云っただろう」

「だけど君の様子は普通じゃない。これを機会に発作が始まったらどうする?君の発作によって誰も彼もが傷付いた事実を知っているだろう」

「…」


実際、もう発作がすぐ其処まで俺を追い詰めているように感じた。
そしてライの言葉により俺はますます境地に追い込まれている。ライ。それは俺に医者という驚異を与える存在だった。


生かすも殺すもその腕にかかっている。
医者は人間だ。女神じゃない。


「…解った」



丁寧に施される其れはくすぐったいような痛みを伴い、液体は血管を滑りながら俺の脳を安定させ、俺の神経を滅ぼしてゆく。


息を吐いた。
吐息は何処までも虚しく、宙に漂い消えるだけで、俺を慰める糧にはならなかった。ただただ俺の血管を巡る液体が、俺のからだの生気を吸いとってゆくだけで。

歯向かうように拳を握りしめても無駄だった。眠気だけに襲われ、体を傾ける。そして俺は残酷な現実を、白昼夢として見るのだ。
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