0-WORLD
「これもひとつのショウ・ビジネス。何を躊躇う必要があるのだい?なあゼロとやら、此処は夢の舞台だ。最強を目指す輩が集まってくるところだ。奴等は死んだっていいさと思っているさ、リングの上で」


俺が初めてコロシアムで人を殺した日の事だった。

今まで寡黙を突き通していたジャッジが急に、椅子に腰を下ろし俯く俺に対し言葉をかけてきたのだ。俺は驚いて、彼女を見上げた。其処にはやはり、四六時中崩さないポーカー・フェイス。


ジャッジのやり方は知っていた。コロシアムの試合で死人の出る事もあるとも。しかし俺は納得出来なかった。何故、何故俺に殺人をさせたんだ、何故相手の息のある間に、試合を切り上げてくれなかったんだ。


「わたしの名はジャッジ。言葉の通りさわたしは、…命に審判を下すのさ」

「…自分の気分次第でか」言葉を吐いた時に気付いた。俺の声は怒気に包まれている。だがそれを気にかける様子もなく、彼女は吐いた。「そうだ」


「審判は審判なりに考えるのさ、どうすれば面白いショウが出来上がるか。ただの殺人・ゲームじゃ味わえないだろう。審判に左右される命の有り様を」


ジャッジは屈んで、俯く俺の顔を見上げた。
ゾッとした。
ポーカーフェイスから生まれる満面の笑みには、邪悪が確かにあった。


「何だよ怖じ気づいたのかい?これがミッションという世界の姿さ。この世界に生まれた以上、邪悪に染まることも覚えなきゃならないんだ」
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