0-WORLD
そのジャッジの言葉だけが、俺の体内を巡り、心臓を侵食する。どくどくどく。高鳴る胸は、俺の息の根を締め付け、やがて俺の神経を沸騰させる。狂。


「中止よ!もう辞めなさい!辞めてえっ!」


ユリィの絶叫は邪悪な歓喜にかきけされ、意味のないものになる。無意味だ、何を云っても、こいつらには通用しない。殺せ殺せと懇願する奴等に、良心はない。


ジャッジがゆっくりと両手を広げ、手に持つステッキを俺の方へ向けた。沸く場内、なにもない。其処にはなにもないんだ。愛も夢もなにもないんだ。そして、俺も。

ゆっくりと息を吐いた。
なんだ、俺は震えているのか。
馬鹿馬鹿しい、人を殺すのなんてこれが初めてじゃないし、所詮俺は、


ブツリと意識が途切れ、俺は気を失った。
いや、それは意識だけだ。からだは今頃、対戦相手の命を貪っていることだろう。ぼんやりそう思いながら視界の端を眺めていた。飛び散る血液、転がる肉塊。俺はそれが、生気を失った彼の右腕だと気付いた。


何も聞こえない。
そんな世界に居た。


思い出させないでくれ、こんな風に、俺が、父親を、ちちおやを、ころしたなんて。


「ゼロォッ!」


俺をそんな闇から救ってくれたのは、ユリィの声だった。
母親のように俺を掬い上げる。不思議だよお前が居れば、俺は何処までも生きれるような気がするんだ。
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