0-WORLD
一歩一歩踏みしめるたび宙に舞う緑の葉たち。
狂ってしまったと感じるしかなかった。
俺が住む世界、ミッションという都市の姿が脳裏によぎる。
薄汚れた路地裏、無機的なネオンが寂しく暗黒に彩られた都市を照らす。
そんな情景が俺の“当たり前"なんだ、童話の中の世界を信じろと云われたって、俺はあの昼も夜もない漆黒の世界が恋しい。
少なくとも、そう思ったつもりだった。
だが、想いを裏切ったのは他の誰でもない、自分だった。いや、自分のからだというべきか。
雨が頬を伝ったと思った。だがそれは俺の涙だということを、何処までも晴れる空が証明していた。
「お前も、此処に戻ってきたのか」
その声と言葉と、俺自身の涙にびくりとして、俺は振り返りながら袖で涙をぬぐった。
女…いや、まだガキの声だった。小生意気そうな、それでいて畏れも感じさせる不思議な声色。それは確かに、俺の後ろから聞こえたと思ったのだが。
「眼もやられてるのか、いや、耳か?…総てか。まぁどうでもいいさ、傀儡に対した用はねえ」
「何だと…!」
反射的に声を発していた。だがその自らの声に俺は恐れを感じることになる。何故って、聞こえるんだよ、響くんだよ。この空間に、このまあるい世界に、果てのない草原総てに、拡がるように。
そして確かに俺を脅かさせた女の声を追い、視線をそちらに向けたのだ。確かに、そうだったのだ。だがしかし、何故だろう。靄というものはこんなに巨大で、空さえ貫くものなのか。
俺は自然という驚異に尻餅をつきそうになる。
情けないが、白状するとそんな事になる。全く、マルクトのファイトのチャンプ、ゼロの名が廃れてしまう、このままじゃ、このままじゃ。