0-WORLD
そのナイフを止めたのは奴の足だった。
ぼんやりと奴の靴に踏まれた俺の頼りないナイフを眺めていた。そして視線を上げ奴の表情を覗くと、裂けてしまいそうな程口を曲げにやりと笑っていた。
死という言葉が頭の中を過った。死ぬ。死んでしまう。それは今まで対峙したことがない恐怖だった。いくら、手傷を負おうとも、血ヘドを吐いても、俺は結局のところさ、それでもニヒルに吐いてみせるんだ、「平気だね」って。
だけどさ通じねえよこんな相手に。野生の勘、ってやつだよ、ほら、よく云うだろ?そう例えば、なんちゃって大将マツリが云うようにさ。
「おめーら、手に負えないと少しでも、髪の毛一本でも、感じたら、即座に戦いから降りろ。それは恥ずかしいことでもなんでもないよ、どうも、俺には、死に向かう美学と云うものが解らんくてね」
マツリはそう俺たちに告げたのだった。
あの時は確か酒場の地下で、酒池肉林の宴をグループの皆で楽しんでいる時だった。マツリは、カリスマもありそれに伴う強さを持ち合わせている最高のタウ、リーダーだったが、所謂なんだ、『変わり者』。タウという肩書きがもしなかったら、マツリはこの言葉だけで集約できるよ。
俺はバーボンの瓶片手にそれを聞いたが、(変わり者のいつもの戯言だと流すように)いま、この時、何故なんだ。左から右へと流れていった筈のあのマツリの言葉が、いま、此処に!
「逃げやがれ、畜生っ!!」
俺はやけくそになってそう叫び、身体全体にその指令を出した、つもりだったのだけれど、立ち上がり、また倒れ、ぐう、とうめくことしか出来ずに、それは、決してマツリが解らないと云う戦士の誇りなんてものから来たものではなくて、ただ、怖いだけだ。怖いだけだ!死が!この得体の知れない男が提示する「死」が!
狂乱の宴が今始まる。
貪り尽くされるのか?肉を断たれ神経を裂かれ脳髄を抉り出されながら俺は死への階段を昇るのか。恐怖によって上手く身動きがとれない俺を嘲笑う声が聞こえる。それはこの男の声か、それとも―――――
ぼんやりと奴の靴に踏まれた俺の頼りないナイフを眺めていた。そして視線を上げ奴の表情を覗くと、裂けてしまいそうな程口を曲げにやりと笑っていた。
死という言葉が頭の中を過った。死ぬ。死んでしまう。それは今まで対峙したことがない恐怖だった。いくら、手傷を負おうとも、血ヘドを吐いても、俺は結局のところさ、それでもニヒルに吐いてみせるんだ、「平気だね」って。
だけどさ通じねえよこんな相手に。野生の勘、ってやつだよ、ほら、よく云うだろ?そう例えば、なんちゃって大将マツリが云うようにさ。
「おめーら、手に負えないと少しでも、髪の毛一本でも、感じたら、即座に戦いから降りろ。それは恥ずかしいことでもなんでもないよ、どうも、俺には、死に向かう美学と云うものが解らんくてね」
マツリはそう俺たちに告げたのだった。
あの時は確か酒場の地下で、酒池肉林の宴をグループの皆で楽しんでいる時だった。マツリは、カリスマもありそれに伴う強さを持ち合わせている最高のタウ、リーダーだったが、所謂なんだ、『変わり者』。タウという肩書きがもしなかったら、マツリはこの言葉だけで集約できるよ。
俺はバーボンの瓶片手にそれを聞いたが、(変わり者のいつもの戯言だと流すように)いま、この時、何故なんだ。左から右へと流れていった筈のあのマツリの言葉が、いま、此処に!
「逃げやがれ、畜生っ!!」
俺はやけくそになってそう叫び、身体全体にその指令を出した、つもりだったのだけれど、立ち上がり、また倒れ、ぐう、とうめくことしか出来ずに、それは、決してマツリが解らないと云う戦士の誇りなんてものから来たものではなくて、ただ、怖いだけだ。怖いだけだ!死が!この得体の知れない男が提示する「死」が!
狂乱の宴が今始まる。
貪り尽くされるのか?肉を断たれ神経を裂かれ脳髄を抉り出されながら俺は死への階段を昇るのか。恐怖によって上手く身動きがとれない俺を嘲笑う声が聞こえる。それはこの男の声か、それとも―――――