0-WORLD
「お前の世界の真実は、何処だ?」
靄の中からくぐもった女の声が聞こえた。
それは何故か俺の戸惑いを怒りに変えさせた。俺の世界の真実?急に夢に出てきて何をいうかと思ったら、俺は声を張り上げた。何故そうしたかは解らない。訳の解らないことをいっている相手に、何故わざわざ怒らなきゃならないんだ。…わからない。
「何処だ?」
声と共に靄が天に昇るかのように消えた。
そしてその巨大な靄から姿を現したのは巨大な樹と、その幹に寄り添うひとりの女。
俺は呆然とその、小生意気そうに首を傾け見下すような目線をこちらに向ける女を眺めていることしか出来なかった。褐色の肌、白く透き通った髪とワンピース、そしてグリーンの瞳。年格好は14、15くらいのまだまだ子供、…少女。
「此処に」
女はそういい、一呼吸置いてから話を続けた。子供相手になんて説明しようか、まるでそう悩んでいるようにも見えた。
「来る輩は、みんなこうだ。本質も知らず、のうのうと悟ったような顔をして…問われれば、口をつぐむ。だからおれは」
誘われるように、俺は四方に馬鹿でかく拡がる大木のもとへ一歩一歩歩んでいた。それは恐怖だった。自らが、自らでない何かに、このからだを操られているような感触。
だが心だけは雄々しく震える。こんな、幻想だらけの奇怪な場所で、何故俺はこのガキに支配されるがままに、涙を流しているのか。考えても考えても、俺の思考は何かを掴めない。
「何がいいたい」
「おれは」
少女に近付き詰め寄っても、奴は不敵な笑いを止めようとしない。
グリーンの眼は俺の自由を奪って離さない。俺はただ震える心を何とか押し留める作業で精一杯だった。女はそんな俺を他所に、続けた。
「教えてやっているだけさ、おまえらに、世界の、本質を」
「本質?何の事だ」
「解らない振りをしているだけさ。気付かない振りをしているだけさ。おまえらが、人間が、此処を忘れて暮らすことなど不可能なのに」
此処、とは何処の事だろう。
いや、それはこの空間のことだ。
地球というスペースのことだ。
だけどそれは、俺が見ている夢に過ぎない。この世界も、…この女も。