滑稽なワルツ
過去へのワルツ
最初で最後の、両親からのプレゼントだった。
私の両親は仲が悪かった。
顔を合わせれば喧嘩の毎日。
二人が一緒に笑っている姿なんて、一度も見たことなんて無い。
元から赤ん坊…私が出来るなんて、身体だけの関係だった二人にとっては想定外の事だったのだという。
だけどもう降ろすのは不可能で、仕方なく結婚して、仕方なく産んで、仕方なく私という人間を育ててきたのだと、6才の時に母親に聞かされた。
寂しいとか、悲しいとか、何も感じなかった。
ずっとずっとそうだったから、今更言われたって、何も感じなかった。
「あんた、欲しい物ある?一応お祝いだし。一つだけ買ってあげる」
滅多に物を買い与えない両親が、小学校の入学時にそんな事を漏らした。
カラッカラに乾いた地面に、水を一滴垂らされた気分だった。
早く言わなきゃ、早く言わなきゃ買ってもらえなくなる。
私は必死で考えて、自分が今一番欲しい物を言った。
「本…が、欲しいです」
その日、珍しく両親が二人揃って私の部屋にやってきて、真っ赤なリボンのついた包みを渡した。
開けて見ると、そこには淡い水色の表紙の本があった。
―ラプンツェルのワルツ―
誕生日プレゼントも、サンタさんからのプレゼントも、今まで一度も貰った事が無かった私は、嬉しくて嬉しくて、学校へ行く時も、家にいる時も、肌に離さずその本を大事にしていた。
最初で最後の、両親からのプレゼントだとは知らずに―…。