愛してるを心から
眉をよせ、楽しそうに笑う良兄に、私は言葉を失った。
「なんて顔してんの?・・・気にすんな?」
「いつものことだし」、ケースに収め終わったヴァイオリンを手にとり、階段を上がっていった兄ちゃん。
その後ろ姿を見送りながら、私は一人涙を流した。
何でおにいちゃんは、泣かないんだろう?
何でおにいちゃんは、怒らないんだろう?
悲しくないのかな?
切なくないのかな?
苦しくないのかな?
辛くないのかな?
お兄ちゃんの強さは、あの時の私にはまだ理解できなかった。
そして、あんな屈辱に対して怒らなかったお兄ちゃんの強さを。
私は弱いようにしか見えなかったんだ・・・。
逃げてるようにしか見えなかったんだ。
ほんとうは、誰よりも強かった兄のことを・・・。