定休日は木曜

美帆は、内心ほっとした。
さもない喫茶店のくせに、この店はやたら食べ物のメニューが多い。
それも、
「スタミナ丼」とか
「ラーメン餃子セット」とか
「ミサエのおふくろ定食」とか、
およそここの店構えとはかけ離れたメニューである。
この狭い厨房でどうやってその多様な料理を生み出しているのか、謎だ。
そんなものを頼まれたら、裏口からこっそり出前を頼むしか手はない。

美帆の気持ちをよそに、サラ男はテーブルに置かれたコップを手にとると、喉を鳴らしてあっという間に飲み干した。

「っぷは~!」
ただの水道水なのに、ビールのCMに使えそうな笑顔だ。

「お代わり、お持ちします」
「あ、すみません。いや~暑かったんで、外」

空になったコップを受け取ると、美帆はカウンターへ向かう。
ここで、ふと自分の格好に目が行く。
ギャー!!なにこれ。
エプロンの下がホットパンツであるため、フリルのエプロンの下に何も履いていないように見えるのだ。
まるで、別の種類の店のいかがわしいサービスのようで、いやらしさ百万点であることに気づき、美帆は慌ててカウンターの中に隠れた。

お、お父さんのを借りよう。
父の黒くて長いカフェエプロンは、美帆のウエストに巻くと危うく2周しそうなくらいサイズオーバーだ。
でも、いかがわしいサービスよりはまだこちらのほうがいいだろう。
・・・足さばきが、異常に悪いけど。

美帆は、やたら小またでちょこちょこ進みながら、テーブルに2杯目のお冷を運んだ。

この人は、来るたびに装いを変えてやってくるこの変な店員をどう思ってるんだろう。

お冷をテーブルに置きながらサラ男の顔をうかがうが、既に漫画コーナーから持ってきた「美味しんぼ」に没頭していて、特に気づいていない様子だ。

しめた!
「美味しんぼ」は何十巻もあるから、いい時間稼ぎになる。
その間に、「マスターの気まぐれ子猫ちゃんパスタセット」の用意にかかろう。


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