貴公子と偽りの恋
「優子は彼氏と帰るんじゃないの?」

『彼氏』か…、いい響きだなあ。

「ううん、今日は別々に帰るの」

「そうは行かないみたいよ」

「え?」

「何、勝手に決めてんだよ?」

頭の上から香山君の声がしたかと思ったら、後ろからぐいっと引き寄せられた。

「きゃっ」

「一緒に帰るんじゃなかったのか?」

「え、あ、だって…」

香山君の右腕が肩越しに私の前に周り、ぐっと力を入れられて、私は身動きが取れなかった。

「なかなか来ないから、迎えに来た。帰ろうぜ?」

『うん』て言おうとして左を向いたら、香山君の顔がものすごく近かった。
鼻と鼻が着きそう、というか着いたかもしれない。

あとほんの数センチで、唇と唇が着きそう…
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