貴公子と偽りの恋
「おーい、裕樹! 彼女が来てるぞー」

昼休み。俺がクラスの奴と他愛のない話をしていると、遼が廊下から大きな声で俺を呼んだ。

そっちを見ると、遼の隣に恥ずかしそうに俯いた優子がいた。

遼に何かされたのか!?

俺は大急ぎで弁当箱とお茶を持ち、クラスの連中を掻き分けて優子の方へ行った。

遼がでかい声で『彼女』なんて言うから、『可愛いなあ』とか『大した事ないじゃない』とか言いながら、野次馬がいっぱい集まってきた。

「遼、おまえ声デカイんだよ」

「ああ、すまない」

「悪いと思ったら、連中をせき止めてくれ」

「おお」

「行こう、優子」

俺は優子の手を握った。優子の手は、小さくて子供の手みたいだ。華奢で、俺が力を入れたら簡単に壊れそうだ。

俺は優子の手を引き、屋上への階段を昇った。
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