貴公子と偽りの恋
屋上の鍵は、このあいだ遼から借りたままだった。

今日も曇りだから、弁当を食うにはちょうどいいかなと思った。

優子が屋上に出ると、俺は扉の鍵を締めた。誰にも邪魔されたくないから。

優子がコンクリートに直に座ろうとしたから、俺はハンカチを下に敷いてやった。

すると、「あ、じゃあ私も…」と言って優子は慌てた様子でハンカチを出そうとした。

「俺はいい」と言って俺がさっさと直に座ると、

「ごめんなさい、気が利かなくて…」

と、優子は申し訳なさそうにうなだれた。

こいつ、何だってこんなにいじらしいんだろう。

「いいから、座れって」

俺がそう言うと「うん」と言いながら、優子は遠慮がちに腰を下ろし、膝の上で弁当を広げた。

箸を持って「いただきます」と言った優子が、すごく可愛く思えて、抱きしめたい衝動と俺は戦っていた。
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