貴公子と偽りの恋
「なかなか来ないから、迎えに来た。帰ろうぜ?」

優子の耳にそう囁いたら、優子が不意に俺に顔を向け、鼻と鼻が擦れた。

俺の目の真ん前に優子の黒目がちな大きな目がある。

ふと、屋上で遼が優子の顔に近付いていた光景を思い出した。

あの時の遼より、今の俺の方が顔は近いだろうか。

あの時、優子は頬を赤らめて遼を見上げていたっけ。今の優子はどうだ?

よし。あの時より間違いなく顔が赤いぞ。遼に勝てたな。

優子は潤んだ瞳で俺を見つめていた。
ピンク色で小さくて、柔らかそうな優子の唇が少し開き、まるで俺を誘っているようだ。

その美味しそうな唇は、ほんの数センチ先にある。ちょっと顔を突き出せば、それを味わう事が出来るはずだ。

どうしようか。しちゃうか?
心臓の鼓動が激しさを増し、口から飛び出るんじゃないかと思った。
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