貴公子と偽りの恋
涙が急激に溢れ出し、ほとんど視界を遮られたけど、それに構わず私は駆け出した、つもりだったけど…

「ちょっと待てよ」

香山君に肩を掴まれていた。

「待ってくれ」

「放っといてください」

「放っとかない」

香山君は私の前に回り、両手で私の肩を掴んだ。

再び感じた既視感(デジャヴュ)

私が告白したあの日と同じだ…

「ごめん。またおまえを泣かせちゃったな?」

香山君は親指の腹で私の涙を拭ってくれた。

「香山君…?」

「篠原さん」

「え?」

私の事を『おまえ』でもなく、『優子』でもなく、『篠原さん』と香山君は呼んだ。
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