貴公子と偽りの恋
昼休み。

俺はわざとゆっくり目に裏庭へ向かった。

ゆっくり行くのは、俺なりの気遣いだ。告る相手を待たせたとなると、常識のある女子ならそれだけで慌ててしまうだろう。
それじゃあ可哀相だと思うからだ。

それにしても蒸し暑い。
少し歩いただけでジトッと、肌に纏わり付くような汗が出る。

真夏の暑さは平気だが、梅雨時のこの蒸し暑さは苦手だ。

さっさと済ましちまおう…

裏庭へ行くと、一人の女子が校舎を背にして立っていた。

がり勉女か?

その女は背筋をピンと伸ばし、近付く俺を真っ直ぐに見つめている。

俺のイメージしてた女と少し違う気がする。
黒っぽいフレームの眼鏡には見覚えがあり、がり勉女に間違いないとは思うが…
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