貴公子と偽りの恋
「ああ、それと…」

「条件の追加ですか?」

「いや。今の俺に驚いてないか? つまり表情とか、しゃべり方とか、昨日までと違うだろ?」

「…はい」

確かに違うと思う。でも…

「これが本当の俺だ。もうヘラヘラなんかしない。それでもいいのか?」

「わ、私は…今の香山君が好きです」

言っちゃった。恥ずかしい!

「………」

あれ? 香山君は胸を押さえてる。どうしたんだろう?

「お、おい。眼鏡を掛けろ。早く!」

香山君は胸のポケットから慌てて私の眼鏡を出し、私に押し付けて来た。

「ちょっと待ってください」

眼鏡のレンズが私の涙や香山君の指紋で汚れていたので、ポケットティッシュで拭いてから、顔に掛けた。
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