貴公子と偽りの恋
やだ、涙が出てきちゃった。

「泣かないでくれよ。そんなにあいつが好きなのかよ?」

私はコクンと頷いた。

「自分を変えてまでもか?」

もう一度頷いた。

私はただ、香山君の傍にいたいだけ。香山君の声を間近で聞いて、時々は触れてもらえたら、それだけでいい。

たとえメグちゃんの身代わりでも。本当の私を好きになってくれなくても…


「分かったよ。姉貴の好きにしろよ。でも、中身までは変えないでくれ。姉貴らしさを、なくさないでほしい。頼むよ」

お母さんと同じ事を言われた。お母さんも紳一も、私の事を思ってくれてるんだな…


「じゃあな」

「紳一」

「ん?」

「ありがとう」
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